上村松園《序の舞》修理について

《序の舞》は、昭和11年(1936)の文展招待展に出品され政府の買い上げとなり、当時の東京美術学校(現東京藝術大学)に収蔵されました。また、平成12年(2000)には国の重要文化財に指定されています。

「序の舞」とは、能楽の中でも上品な気分を漂わす格の高い舞のひとつです。本作では振袖姿の娘が伸ばした右袖を返す型の舞姿を描いています。松園ははじめ若夫人の姿で描くつもりでしたが、袖の丈がつまっていてはこのポーズが決まらず、改めて袖の長い娘の姿に構想を変更したといいます。茜色の大振袖の裾模様には彩雲があしらわれ、本作を一層華やかなものとしています。文金高島田に結い上げた女性は、息子の松篁夫人たね子がモデルをつとめました。

松園は「この絵は、私の理想の女性の最高のものと言っていい、自分でも気に入っている女性の姿であります」と語るほど、作者にとって渾身の作であり、今日では近代美人画の最高作品と評価されています。

しかしながら本作は、制作から80年近くが経過し、全体的に本紙と絵具との接着力が低下し、絵具層の粉状化が進行するなど、作品の保存状態に問題が生じてきていました。そのため、近年は展示を控えざるを得ない状況が続いてきました。

平成27年(2015)に、バンクオブアメリカ・メリルリンチ文化財保護プロジェクトのご協力を得て、これ以上の劣化を防ぐため、本格修理を行うこととなりました。修理にあたっては、現状の表装を解体し、絵具の剥落止めやクリーニングを行い、表と裏の両面から膠を塗布し絵具層の接着を行いました。修理後は、作品保存の見地からこれまでの掛軸装から額装へと表装変更を行いました。

装いも新たに、ますます美しくなった《序の舞》。是非ご堪能ください。

画像の説明文

剥落止め(表面)

旧肌裏紙の除去

旧肌裏紙の除去

剥落止め

剥落止め(裏面)

新規肌裏打ち

新規肌裏打ち

< back